昔々、越前の山奥に、コジローという名前のおじいさんと、ムラサキという名前のおばあさんが仲良く暮らしていました。コジローは蕎麦を打つのが大変上手で、その評判は村を越え山を越え、城下町にも知れ渡るほどでした。

ある日、コジローが家で蕎麦を打っていると、はさみを出したカニがチョキチョキチョキ…。せっかくの細く伸びた蕎麦があっという間に短くなってしまいました。このカニはとても有名なイタズラ者でした。ある時は障子を切り刻み、ある時は綺麗に育った菊の花をすべて切り、またひどい時には海に浮かんだ船をそれはみすぼらしくしてしまいました。

こうしてみんなカニを捕まえようと必死でした。しかしカニはすばしっこく、なかなか捕まりません。けれども、そのカニにも、とうとう捕まるときがやってきました。コジローが、長年かけて習得した『ツバメガエシ』という技を使って、そのカニをしとめたのです。この噂は越前中に広がりました。

カニ退治から数日して、お城から使いの者がやってきました。その者はコジローに向かって、
「イタズラカニをしとめたのはおぬしか。」
と言いました。コジローは、
「はい、そうですが。」
と答えました。すると使いの者はうなずき、
「殿が褒美を取らせるとおっしゃっておる。これより城へ参れ。」
と言いました。コジローは承諾し、早速準備をしました。そして、
「お城のケイタイ様は大変素晴らしいお方だという噂だ。会えるのが楽しみだ。」
と、ムラサキにつぶやきました。ムラサキも嬉しそうにうなずきました。

準備ができ、お城へ向かおうとしたコジローに、ムラサキは
「私はここで留守番をしていますが、くれぐれも粗相のないように。」
と、コシヒカリで作ったおにぎりと、鯖を糠漬けにしたへしこ、それにタクアンを持たせました。道中、コジローと使いの者は、おにぎりと鯖のへしこを食べました。おにぎりは、米一粒一粒が光っていて、香り豊かに、甘味のあるおにぎりでした。さらに、へしこの深い味わいにより、二人は瞬く間におにぎりをたいらげてしまいました。

お城に着くと、早速カニ料理でもてなされました。そのカニのうまいこと。ケイタイ様が言うには、ケイタイ様のひいきにしている紙屋さんも、そのカニにいたずらされ、そんな時にコジローがカニをしとめ、大変喜んだということでした。コジローは嬉しくなり、
「とびきりおいしい蕎麦を打ちましょう。」
とケイタイ様に申し出ました。噂に聞いていた蕎麦を食べられるということで、ケイタイ様は蕎麦を打つための準備を家来に命じました。

準備ができ、コジローはとびきりおいしい蕎麦をうちました。その蕎麦はもっちりとしていて、しかしのどごしがよく、大変おいしいものでした。ケイタイ様はコジローに
「何か欲しいものはあるか。」
とおっしゃいました。コジローは、
「それなら妻のためにおいしいカニを下さい。」
と申しました。コジローはカニをムラサキのためにもらい、喜んで帰りました。ケイタイ様はそれを感心そうに見つめていました。

帰り道、雨が降ってきたので、コジローは木の下で雨宿りをしました。そのため、まだ家に着かないうちにお腹がすいてきました。カニはムラサキにあげるのだから、食べられません。困っていると、木からキノコが生えているのを見つけました。
「や、寒茸だ。助かった。」

コジローはその寒茸を焼いて食べました。やわらかなキノコは、風味豊かに疲れた身体をほぐしました。そして、ふと、行きにムラサキが持たせたタクアンを思い出しました。いそいでタクアンの包みをほどくと、中から腐りかけたタクアンが出てきました。
「ああ、ばあさん。これはだいぶ古いタクアンだのう。」
しかしお腹がすいていたコジローは、それを煮て食べることにしました。タクアンの煮たのは、案外いけました。
「これはうまいぞ。タクアンよりうまいかもしれん。」

やがて雨が上がり、家へ戻ると、ムラサキが笑顔で迎えてくれました。コジローは、ムラサキのために持って帰ったカニを出しました。ムラサキは大変喜び、食事の用意に取り掛かりました。
その日の食卓は、コシヒカリと鯖のへしこのお茶漬け、カニと寒茸の鍋、そして古くなったタクアンを煮こんだものでした。
こうしてコジローとムラサキは、寒い冬もアツアツに過ごしたのでした。
